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火影様が目の前にいた。間近で見たの初めてじゃないか?ってかなんでカカシはそんなに普通にしていられるんだ?相手は火影様なんだからもうちょっと礼儀って言うかさ、目上の人に対する、態度がそういうので良いわけないだろうに。 「君がイルカちゃんでしょ?」 声をかけられて、はいっ、イルカちゃんですっ!と言ってからはっとした。 「イルカ、ちゃん...?」 不審な目でカカシを見てやった。カカシは慌てている。 「俺は悪くないよ!?四代目が勝手にイルカを女の子って勘違いしてっ、」 「否定しなかったじゃない。」 「肯定もしませんでしたよ。」 ぷっと笑った。なんだか似たもの同士だね。しかもあのカカシが押されてる。火影様が急に身近に感じられた。 「うみのイルカです。カカシと仲良くしてもらってます。」 「礼儀正しいしっかりした子だね。アカデミー生?」 「はい、今度の試験では必ず下忍になってみせますっ。」 気合いを込めて言うと火影様は優しく笑った。里の者には寛容で温厚だけど、戦にでればその指揮は闘神のように迅速に的確に、敵の目を欺き、華麗に終結させると言う。 「俺はね、火影だけどカカシの上忍師でもあったんだ。」 それは初耳だった。火影様が上忍師だったなんて、いいなあ。 「だからカカシにとって俺は先生なのよ。ね、カカシ?」 先ほどからこちらをはらはらとした面持ちで見ていたカカシは、その言葉に気まずそうにそっぽを向いた。あれは照れているらしい。 「それで先生、一体何の用なんです?執務室から出てきてわざわざ俺に会いに来たわけじゃないんでしょ?」 先生、の所を強調して言うカカシに火影様は苦笑いで答えた。 「たまには息抜きにね。三代目の話が長くって肩がこっちゃったのよ。でも来て良かったよ。イルカちゃんにも会えたしね。」 あの、ちゃん付けするの、やめてほしいんですけど...。 「ま、あんまり長居するのも悪いし、お邪魔虫はさっさと退散するよ。」 火影様は人好きのする笑みを見せた。そして瞬身の印を結ぶ。 「四代目?」 カカシが怪訝そうな顔をしている。 「イルカちゃん、なんて。本人の目の前で言わなくたっていいだろうに。今度会ったら注意しとくから。」 カカシはそう言ってため息を吐いた。いや、ため息を吐きたいのはこっちだ。 「カカシにも上忍師がいたんだね。」 「そりゃあいるよ。」 「じゃあスリーマンセルの仲間もいるの?」 「ごめんな、カカシ。」 言うとカカシは目を見開いた。 「なーに謝ってんのっ?」 そう言って今度は優しく笑った。火影様みたいな笑顔だった。なるほど、2人は師弟だもんな。とてもよく似ているよ。 それからしばらくして、カカシは単独で長期の任務に就き、里から遠く離れた任地へと行ってしまった。帰るのは数ヶ月後だと言う。この一年、一週間以上の長期の任務は初めてだったので少し心配したが、カカシのことだ、今回も無傷で帰って来ることだろう。 その時の攻防で木の葉の忍びの数は激減し、上忍師になる忍びすら足りなくなり、その時期の下忍認定試験は廃止された。 何も話さなかった。沈黙は、だが重苦しいものではない。ただ、会話がなくともその存在だけが愛しかった。 「カカシ、もうここに来てはだめだ。」 「どう、して?俺のことが嫌いになったの?」 カカシは、相変わらず変な勘違いをする。俺は苦笑いした。嫌いな人間のために必死になって天ぷらを改良して、嫌いだった炊き込みご飯を自分好みの形にして、そんなことをする必要があるだろうか。 「好きだよ。だから、一緒にいてはだめだ。」 「俺が、迷惑?俺は、絶対に死なない。絶対にイルカを一人にはさせないから。これからだってちゃんと一緒にいるからっ!!」 だから自分を一人にしないで、と目が語っている。中忍だと言うのにこの拙さはなんだ。 「カカシ、傷を舐め合うのは逃げだ。俺もお前もしっかりと地に足をつけて生きていかなきゃならない。しばらく、一人になろう。」 「嫌だ、もう誰も、置いていかれるのは、嫌だっ。」 カカシが自分よりも幼く見える。けれど、俺の決心は揺らがなかった。決めたことだ。俺はもっともっと努力して下忍になる。今度こそ、次こそなる。 「カカシ、約束だ。俺がお前と同じ中忍になったら、その時にまた会おう。カカシはその頃、本当の暗部になってるかもな。」 はははと笑って俺はカカシの手を取った。そして無理矢理小指を自分の小指に結ばせる。 「指切りげんまん。」 笑って言うと、カカシは痛切な笑みを浮かべて小さく指切りげんまん、と呟いた。 それから俺たちはいろんな話しをした。夜も大分更け、雪が吹雪になっていたのでカカシを泊めて一晩中語り明かした。 「ごめん、ごめんな、カカシ。」 両親を亡くした孤独の痛みではなく、カカシのために涙を流した。 |